2021年3月21日
3月22日、複数のメディアで、昨年(2020年)7月、特別養子縁組をあっせんする東京の民間団体ベビーライフが突然事業を停止した問題について取り上げられています。東京都がこの団体があっせんを予定していた子どものたちの安全確認に乗り出していたことがわかった、と報道されました。
この報道を見て、「特別養子縁組の民間あっせん団体って大丈夫?何か心配・・」と不安に思った方も少なくないのではないでしょうか。
フローレンスは特別養子縁組の支援を通じて、すべての子どもが温かい家庭で育っていける社会の実現に向かって活動してきました。
だからこそ、これから特別養子縁組をすることを考えている方々には、民間団体だからといって不安に思われることなく、正しい情報を知っていただきたいと考え、こちらの記事ではフローレンスの活動を交えた解説をお伝えしていきます。
フローレンス代表理事の駒崎がニュースについての見解を投稿していますのでぜひ併せてご覧ください。
https://note.com/komazaki/n/nf30abbcf468e
2018年4月に養子縁組あっせん法が施行され、民間あっせん団体の事業は自治体への届け出制から許可制に変わりました。同法律は営利目的の悪質な団体を排除するために、2016年に成立。
許可要件として経営基盤や社会的信望があることなどが挙げられ、無許可で事業を行った場合の罰則も設けられました。
2009年より事業開始していたベビーライフ(以下、同団体)においても2018年9月に東京都に許可を申請。事業停止当時は、許可申請の審査中であり、結果が出るまでの「経過措置」として許可がなくても事業ができる状態でした。
都によると、2020年7月に同団体は許可申請を取り下げることを都に連絡。都は同団体があっせんした子どもと実母らに関する資料を都に引き継ぐことを要請。これに対して同団体側は8月、戸籍や住民票など394件の関係書類を収めたダンボールを都に送ってきたものの、以降の連絡を拒否し、追加の提出の求めにも応じていないということです。
同団体を通じて子どもを迎えた養親から、子どもが養子縁組に至った経緯を知らせないまま団体がなくなってしまったことへの不安が広がっています。
記事要旨にもありますが、「養子縁組あっせん法」が施行された2018年4月以降は、都道府県による許可がなければ事業ができなくなりました。
この「許可」が実際どのように下りるかというと、例えばフローレンスにおいても2018年8月に東京都に「許可申請」を行い、そこから都による支援方法や情報管理などについて細部に渡るまでの厳正な審査を受け、4ヶ月後の2018年12月に無事「許可」を受けました。
最終的な許可が出ていない間は、都道府県から団体に改善指導がされている途中である可能性もあるので、養子縁組を考えている方が養子縁組あっせん団体を選ぶ際には、その団体が許可が下りている段階なのかどうか、確認するとよいでしょう。
また、許可団体においても、支援の特徴はそれぞれ異なるので、民間団体が実施する説明会や研修を受けることでご自身に合った団体を選ぶことが大切です。
報道では同団体を通じて子どもを迎えた養親が子どもが養子縁組に至った経緯を知らされないまま団体がなくなってしまったことへの不安が強く、取材で「団体から実母がなぜ養子縁組を選択したのかを知らされておらず、成人後に子どもが希望すれば、本人に資料を渡すと言われていた」と話す養親のコメントも取り上げられていました。
特別養子縁組の支援では、まず妊娠に悩む実母さんの状況を丁寧に聞き取り、子どもを育てる場合の社会資源など特別養子縁組以外の手段についてもしっかりと情報提供を行った上で、自身が納得できる自己決定の過程に寄り添うことが大切です。
そして最終的に赤ちゃんを特別養子縁組で委託することになった場合には、その赤ちゃんを迎える家族に実親がどのような経緯で特別養子縁組を考え、どのような葛藤があり、子どもへのどんな願いがあって特別養子縁組を選んだのか、しっかりと伝えます。
養親は子どもを迎えたらおわりではなく、子どもの人生に寄り添い、その成長過程で出自を伝え、長きにわたり支えていかねばなりません。
そのためにあっせん団体は実母に直接的に関わり支援してきた立場として、実母が子どもを託すに至った経緯について 委託時に養親にしっかりと説明を行うべきです。
参照リンク:フローレンスが「特別養子縁組」の支援で大切にしていること
団体には、委託時に適切な情報提供をしたうえで、情報をきちんと保存しておく義務があります。
一方で駒崎の解説記事にもありますが、民間団体は公的機関ではないので、一般的な企業等と同じく廃業のリスクはどの団体にもあります。
そうした際に、養子縁組の情報が保存・継承されなければ、子どもが大きくなった後の出自を知る権利は制限されてしまいます。
また、民間団体が廃業した際に、養親家庭のケアを他団体に引き継ぐスキームも未整備です。こうした基本的な法的スキームの欠如が、今回の事件で露わになったといえます。
本件を教訓に、養子縁組情報一元化と団体廃業時の引き継ぎスキームの整備についても、今後行っていく必要があるでしょう。
読売新聞の記事には、事業を停止した団体が、養親から多額のあっせん費用を得ていたと報道していますが、費用を得ること自体は法律で認められています。ここは報道によって誤解を生まないようお伝えしたい点です。
活動には当然お金がかかります。
ソーシャルワーカー等の人件費、オフィスの家賃、備品や通信費等の必要経費がかかり、法律に則った徴収であれば、それらを養親から費用を徴収することも認められています。フローレンスでは研修やHPでも費用について事前に情報公開しています。
昨今では、「モデル事業補助」という形で、モデル的な取り組みを行う団体には厚生労働省と都道府県より一部運営費が補助されるようになり、フローレンスもこのモデル事業補助団体として2018年度・2019年度・2020年度と連続して選出されています。
しかし、こういった補助も現在は限られた団体しか得られていないのが実状で、多くの団体は経済的に非常に厳しい状況です。
本来、適切な支援や経営状態が確認され許可を受けた団体であれば、補助を受けられるようにすべきです。この点については引き続き政策提言を行なっていきます。
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本件を通じ、特別養子縁組を適切な形でさらに社会に拡げていくためには、一団体として丁寧な支援を実践していくと同時に、社会全体で、仕組みづくりに取り組んでいくことの必要性を改めて感じています。
予期せぬ妊娠による虐待死を防ぎ、子どもが愛情あふれる家庭で育っていける社会を目指して、皆さんとともに、一緒に取り組んでいけたらと思いますので、引き続きの応援よろしくおねがいします。
<補足>
東京都から許可を受けた民間あっせん団体は2020年2月17日に厚生労働省および東京都に
上申書を提出しています。
今後も、特別養子縁組制度のよりよい拡大のために、許認可制度が適切に運営されることを願っています。